「無月経を放置していた20代」から「体と心が喜ぶ」キャリアへ【ダンサーインタビュー11:竹本涼子さん】

5歳からバレエを始め、無月経や度重なる怪我に悩まされながらも踊り続けてきた竹本涼子さん。現在は女性ホルモンバランスプランナーとして、バレエやダンスに取り組む女性たちの体と心に寄り添う活動を展開しています。

バレエか就職か、揺れ動いた20代。妊娠を機に出会った女性ホルモンの学び。そして、自身の経験を糧に、ダンサーたちに伝えたいという強い想い——。バレエと女性の体の関係に光を当て、新しい道を切り拓いた竹本さんに、そのキャリアの軌跡を伺いました。

「バレエか就職か」専門学校卒業時の葛藤

——まず、現在のお仕事について教えてください。

竹本:女性ホルモンバランスプランナーとして、女性のホルモンバランスを整える施術やレッスンを行っています。具体的には、生理の改善、妊活サポート、マタニティケア、産後ケア、更年期の女性ホルモンケアなど。中学生から大人の方まで、幅広く対応させていただいています。

——バレエはいつから始められたのでしょうか。

竹本:5歳の頃ですね。母が始めさせてくれたんです。生まれつき体が柔らかくて、スプリッツ(開脚)ができていたらしくて。母は初め新体操をさせたかったみたいなんですけど、周りに習える場所なくて、それでバレエを始めることになりました。

——今のお仕事を意識したのはいつ頃だったんですか?

竹本:今の仕事は、本当に経験を重ねてきて行き着いた、という感じなんです。初めはバレエの道に進むのか、就職するのか、すごく悩みました。それは専門学校の卒業のタイミングでしたね。

——経験を積み重ねた結果たどり着いたキャリアだったんですね。専門学校は、バレエやダンス関連の学校だったんでしょうか?

竹本:いえ、英語の専門学校でした。高校はバレエコースがある高校に通っていて、そこでこんなに上手い子たちがたくさんいるんだって現実を見たんです。自分は怪我も多くて「あ、もうダメかも」となって……。それで英語が好きだったので、英語を勉強してバレエ団で通訳ができればいいな、と考えていました。

——それでも、英語の道には進まずバレエの道を選ばれたんですね。

竹本:そうなんです。専門学校に通いながらもずっとバレエはやっていて。就職するならホテルとか、ガッツリ仕事をしようと思っていたんですけど、2年間すごく悩んで。最終的には就職せずに、プロのバレエ団には入れないけれど、子供たちに教えたり、いろんな場所で踊ったりしながら、好きなバレエを続けようって決めました。

「無月経も放置していた」20代の苦悩と転機

—ご自身の体と向き合うまでのきっかけについて伺えますか?

竹本:バレエを続けていく中で、発表会や舞台に立つ機会はあったんですけど、全然上手く踊れなかったり、怪我が本当に多いことが辛かったですね。それに、無月経の経験もあって。当時20代前半だったんですけど、特に何も考えず放置して、婦人科にかかってお薬で生理を戻してもらって、という状態で過ごしていました。

——それが今のお仕事につながっていくんですね。

竹本:はい。20代後半で結婚して、妊娠を意識したときに、子供って自然と授かれるものって思っていたんですけど、思ったようにいかなくて。そこで改めて、心と身体と向き合う必要性を感じました。当時、バレエの生徒さんたちを指導していたこともあって、バレエをやっていく中で生理が止まることがあるんだな、自分の体を知らないことが怪我を引き起こす原因にもなるんだなって痛感しました。

——それで女性ホルモンについて学ぼうと?

竹本:そうなんです。妊娠のため、というのもありましたし、これからバレエを指導していく上で、女性の体のことを知っておきたいと思って。体の動かし方については、大人になってから出会った先生の元でピラティスの資格を取ったり、AWAKEメソッドを体得しながら学んでいき、怪我予防の改善や踊りの変化は大きく感じていきました。でも、生理のこと、女性ホルモンの部分だけがどうしても引っかかっていて。

調べていたら、女性ホルモンバランスプランナー協会が出てきて。一番根本的なことを教えてくれそうだと思って、養成講座を受けることにしました。そこで「あ、女性ホルモンとバレエって、こんなに繋がっているんだ」って気づいたんです。

——どのように繋がっているんでしょうか?

竹本:例えば、施術で捉える体の場所がバレエで使う筋肉とぴったり重なるんです。アンディオールで使う筋肉とか、足を上げる筋肉とか……、そこが女性ホルモンの改善につながる部分でもあって。バレエをやっているとお尻の筋肉が硬くなりがちなんですけど、そこがガチガチになると、子宮や卵巣の機能が悪くなってしまうんです。

「この学びを伝えないと」妊娠、出産、そして決意

——資格を取るのにどれくらいかかりましたか?

竹本:理論の部分が3か月くらい、施術のボディセラピスト養成講座も2〜3か月でした。私は妊娠中に施術の講座を受けに行ったんです。もともと取る予定ではなかったんですけど、施術ができるようになったら、体の動かし方だけじゃなくて、もっと深く寄り添えるなって思って。

——妊娠中に資格を?

竹本:はい。講座が終わったときにはもう妊娠後期だったんですけど、友人のピラティススタジオで少し施術をさせてもらって、ちょっとずつ経験を積むことができました。

——出産後はどうされましたか?

竹本:子供が結構手のかかる子で「あ、仕事復帰は無理かも」って一瞬思ったんです(笑)。でも、やっぱり思いがだんだん強くなっていって。幼稚園に入って私が動きやすくなったタイミングで、月に1回、2回くらいから少しずつ活動を始めました。本格的に広げていったのは、子供が年少に入ったくらいからですね。

「18歳から20歳で骨密度の最大値が決まる」

—現在のお仕事で大変なことは?

竹本:バレエやダンス、審美系の方たちに伝えていきたいという思いがすごくあるんですけど、なかなか浸透していかない印象です。もちろん中にはキャッチしてくださる方もいらっしゃるのですが、生理のことを当たり前に我慢して過ごしてきた方も多くいらっしゃると思うので、そこをどう伝えていくかが大切だなぁと感じています。

——それでも伝えたい、という思いが強いんですね。

竹本:はい。私自身、無月経を放置していた経験があって、その時の体は骨も血もボロボロだったと思うんです。女性ホルモンの働きには、骨や血を強くする、内臓脂肪をつきにくくする、コレステロール値を下げる、記憶力を上げる、といったものがあって。これって、バレリーナにとってもすごく大切なことなんです。

——若い頃の無月経がいかに怖いか、ということですね。

竹本:18歳〜20歳頃で骨密度の最大値が決まると言われています。だから、若いうちの月経指導がすごく大切。生理トラブルがなくても知っておくことが重要なんです。

仕事のやりがいは「その人の人生に携わること」

——今の仕事のやりがいを改めて教えてください。

竹本:女性ホルモンの悩みって、体のことだけじゃなくて、幼少期からの心のこと、人間関係、いろんなことが合わさって生まれていることが多いんです。だから、女性ホルモンに携わるということは、その方の人生に携わること。施術をしていて、本当は話すつもりなかったんだけどって涙を流される方もいらっしゃって。その後、体が変わっていったり、妊娠につながったり。目には見えない部分ですけど、そこに寄り添わせていただいて、一緒に信じて、奇跡みたいなものを感じていく——それがすごくやりがいになっています。

——将来の夢や目標について伺えますか?

竹本:10年後、ダンサーの女性ホルモンケアがもっと当たり前になっていたらいいなと思っています。オリンピック選手やアスリートの間では月経指導が広まっている印象があるんですけど、バレエ界ではまだまだ。怪我をしたら治療院に行くのと同じように、生理のことも体のケアの一環として、当たり前に考えられるようになってほしいんです。

——最後に、キャリアに悩んでいるダンサーや親御さんにメッセージをお願いします。

竹本:私自身、すごくキャリアに悩んできました。でも、その時一生懸命目の前のことをやっていくことが、バレリーナになることにも繋がるし、全く違う道に行ったときにも必ず生きてくる。経験も、人間関係も、その時の情熱も、心も体も向かう姿勢も、すべてが糧になります。だから、きちんと自分で選んでいくこと。そして親御さんには、お子さんの意見を聞いて、一緒に決めていってほしいと思います。

【竹本 涼子(たけもと りょうこ)】
salon&studio Infinity 主宰。5歳よりバレエを始め、日本音楽高等学校バレエコース卒業。長年の怪我や無月経の経験を経て女性ホルモンケアに取り組むようになり、ピラティスやAWAKEメソッドを取り入れたコンディショニングで、ジュニアから大人までのダンサーや女性の健康支援を行っている。現在一児の母。

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