〈後編〉「バレエダンサーを食べさせたい」日本で一番コンクールを主催する想い 【ダンサーインタビュー1:山城陽子さん】

「バレエを頑張る子たちを守りたい」という思いで、「Japan Ballet Competition」を立ち上げた山城陽子さん。

彼女自身がバトントワリングの選手だった頃の経験をもとに、バレエダンサーたちのキャリアサポートに取り組む理由とは――?

<前編:https://dancerscareer.jp/archives/375

■「もう少し自分に情報があったなら……」

――紆余曲折があって、「バレエダンサーのキャリアを守りたい」という現在の目標に繋がるんですね。

こんな人生になるとも、バレエ業界にこんなに思い入れができるとも思いませんでした。でも、何故「バレエを頑張っている子たちを守りたい」と思ったのかと考えると、やっぱり自分が二十歳そこそこで、自分の中だけの判断基準で引退を決めてしまったからだと思うんです。

当時は心から納得して、結婚というキャリアトランジションをしてしまったけど、もしかしたら パラレルもあったかもしれない。結婚しながら、子育てしながら、競技も続けていてもいいかもしれない。もうちょっと自分に情報があったら、違う道もあったんじゃないかなっていうのがずっと引っかかっていて……。

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ジャンプする女性

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■「第一線を終える=ドロップアウト」じゃない

――そういった経験がダンサーの皆さんに重なるのでしょうか?

本当にコンクールによく出場するような子は特にそうなんですけど、自分が歩みを止めたらもうドロップアウトだと思っている。第一線終わったから、 もうこれで私のダンサー人生終わりって言って辞めちゃったりとかするんです。

私自身も、冒頭では全国8位まで行きましたって言ってますけど、その上に7人いたわけです。 でも、そこを目指さなかった、ドロップアウトしたっていう自責の念がありました。

でも、 ひょんなことで、バレエの人たちに仕事を通して出会えた。ものすごく純粋に、練習を重ねて挑戦している子達に「いろんな関わり方があるよ」っていうことを 教えてあげられるようになりたいですね。

■ダンサーの行き先を少しでもサポートしたい

――それが現在の「ダンサーズキャリアサポート」ですね。

必死になってバレエを頑張っていても、18〜20歳になると、親御さんも将来どうするのって話になるんですよ。

バレエ業界で20年くらい仕事してますけど、素晴らしいダンサーがどれだけ消息不明になっていることか……。もちろん幸せに生きている方も多いと思うんですが、その後バレエやダンスっていうものと関わらない人生にどんどん行ってしまうっていうのが悲しい。 少しでもこの業界にとどまって、関わって生きていく人が増えてほしい。そんな思いが「ダンサーズキャリアサポート」になった、という感じなんです。

テーブルを囲む人々

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仕事として、コンクールというダンサーのための入り口を提供しているけれども、その出口の部分はもう商売ではなく、私のライフワークとしてダンサーを支えていきたいと思っています。

■真剣にやっていると必ず将来に生きる

――キャリアに悩むダンサーの方に伝えたいことはありますか?

「ダンスしかやってきてないのに、就職できるんですか?」とか、本当に皆さん不安がっているんですよ。

ダンサーの方たちって、レッスンを10何年間コツコツと積み上げることが普通のことだと思っているんですけど、実はそれってものすごいことなんですよ。それができている時点で、あなたには素晴らしい社会人としての能力が身についているんだよ、ということは皆さんに伝えたいし、自信を持ってほしいです。

――社会において「継続力」は間違いなく凄まじい武器ですね。

真剣にやっていることは必ず将来に生きるので、今は精一杯ダンスに取り組んでほしい。その中の10パーセント、20パーセントぐらいのところで、将来のことも考えながら、さらにその自分の興味のあることを勉強していくっていうことをやってほしいなっていう気はしますよね。

私自身、就職活動はしてないし、きっかけはたまたまでした。でも、聞いた話にポンと乗らなかったら、私の将来はなかった。なので皆さんも、自分の心が動いたら、勇気を持って進んでみる、チャレンジしてみるっていうことを大事にしてほしいですね。

■日本のバレエダンサーの地位を高めたい

――山城さん自身の将来の夢はありますか?

将来の夢は……日本のダンサーたちを連れて世界ツアーをしたいです。何か国でもいいので、日本で選抜したメンバーのダンサーたちを連れて、日本人が踊るバレエの公演をしたいんですよ。

もっと大きな夢としては、国立のバレエ学校とバレエカンパニーができたらいいなって思います。フランスの パリに「パリ・オペラ座バレエ団」という有名なカンパニーがあるんですけど、そこの「エトワール」という1番トップのポジションに昇格した方は、フランスの国民が誰もが知るスターなんです。

日本なんて、一般の人は誰もバレエダンサーを知らないじゃないですか。生きているうちに叶えられないかもしれないけど、 日本の社会におけるバレエダンサーの地位をもっと高めていきたい、というのが最終目標です。

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■大きな目標は「バレエダンサーを食べさせること」

――フランスでは社会的地位も名誉も得られる職業なんですね。

日本でお給料が貰えるのは、本当にトップのダンサー数名くらいだと思います。ステージに立ったら、役によってギャランティは発生しますけど、その公演が年2、3回っていうこともあるわけです。 しかも、バレエ団に所属すると月謝や団費を払わないといけないところも多い。完全にマイナスなんです。 でも、舞台に立ちたい気持ちが強い皆さんはそこを修行として頑張って、アルバイトを掛け持ちしながら夢に向かっていく。

海外は海外で、同じように職を求めている人たちが世界中から集まってきますし、アジア人ダンサーを求めているとも限らない。ダンサーとして生きるっていうのは針の穴に糸を通すよりも難しい。だから、 その道筋を日本でも作っていきたいと思っています。

――バレエ団に所属することができても、それだけでは暮らしていけないのですね。

バレリーナって可愛らしいので、手っ取り早くお金を稼ぐために夜職に行っちゃったりする場合もあるですよ。それが悪いとは言わないし、否定もしないんだけど、 それしかお金を稼ぐ方法がないっていう世の中ではないという事を伝えたいです。

たとえば、バレエの知識を活かして、バレエ専門のフォトグラファーになったっていいわけです。撮影する上でダンサーが一番シャッターチャンスを理解していますからね。日本のバレエダンサーが踊りながらご飯が食べていけるような社会になるよう、頑張りたいです。

■本人が辞めたいと言うまで支えてほしい

――最後に、ダンサーを持つ親御さんや先生方にメッセージはありますか?

先は見えないかもしれないけど、 その子のやる気がなくなるまでどうか支えてあげてください。目に見えた成果を求めたくなるとは思うんですが、豊かな人間性を日々ものすごく育んでる最中で、それは普通に就職したら得られない貴重な経験なので、どうか見守ってほしい。

本人がやめたいと言うまで、親御さんや先生の意向で辞めさせることのないようにしてほしい。本人の意思で辞めるのはトランジションになるんですけど、 周りに言われて辞めるのは、生涯後悔が残ることになりかねない。

部屋の中に立っている人たち

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私は親からサポートを受けられなかったタイプだったけれど、もし親が30歳までとか支援してくれていたら、喜んで現役やっていたと思う。だからこそ、皆さんには本当に長い目で見て、支えてもらえたら嬉しいです。

【山城陽子プロフィール】

1975年、愛知県生まれ。BALLET SUITE代表取締役社長。5歳のころバトントワリングに出会い、21歳で全国8位に。その後、「松本道子バレエ団」、青少年のためのバレエコンクール「ザ・バレコン」「NAMUEクラシックバレエコンクール」での経験を経て、日本で最も開催数の多いバレエコンクール「Japan Ballet Competition」の主催者に。現在は、ダンサーの人生の選択肢を広げるべく「ダンサーズ・キャリア・サポート」を仲間とともに立ち上げ、活動を続けている

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