〈後編〉150cmのバレエダンサーが気付いた「フリーにとって一番大事なコト」【ダンサーインタビュー2:酒井友美さん】

「コミュニケーションが踊りより大事かも」。

身長150cmと小柄ながらも、ダンサーとして自分らしい舞台を追い続け、フリーランスになった酒井友美さんが気付いた、一番大事なこと。そして、ダンサーとして生き続けることの覚悟について聞きました。

■多少の課金も未来への投資

――バレエカンパニーを退団してフリーになってからの1年間は、「とにかく横のつながりを広げた」とのことですが、どういうことをやられていたんですか?

バレエ協会さんが募集しているような、オープンオーディションを受けたりしていました。もちろんチケットのノルマはあるし、お金がかかってしまうこともあるんですけど、多少の課金は仕方ないと思っていました。バレエ協会さんの舞台はプロから、 趣味で踊っている方までいろいろな方が出るので、そこで出会った方々とコミュニケーションを取っている間に、人脈をつくっていきましたね。

舞台じゃなくても、アーキタンツなどのレッスンに行って、クラスのレッスン代はかかるけども、 そこで例えば先生に気に入られて、そのまま舞台に誘っていただいたりなんてことも全然あるらしくて。なので、いろいろな場所で、とりあえずいろんな人と出会って自分の顔を売っていくような感じですね。

――踊りに繋がる機会をどんどん拾っていくっていうことですね。

私の尊敬している同じフリーダンサーの先輩に「多少の課金なんて自分の今後の未来に繋がるためには安いものだから。横の繋がりが1番大事だから、たくさん課金して、それで仕事をもらってこい」って言われたんですよ。

それを聞いて「なるほど」と思って。例えば、踊ってギャラが出るのは当たり前じゃなくて、下積みだったらばギャラが出なくても、踊る。それでそこの先生方にもし気に入っていただけたら、来年からはもしかしたら謝礼が出るかもしれない。「最初の1、2回はとりあえず繋がるため課金と思いなさい」って言われて、そこから私も全然ノーギャラで踊ることはありますし、「これしか出せないんだけど……」って言われても、全然いいですよって引き受けたりとかして。そうすると、やっぱりその人とは長く続くようになるんですよね。

――1年目の指針にされていたわけですね。スクールを始められたのはどのくらいのタイミングからなんですか?

ほぼ退団に近いぐらいの頃に教え始めましたね。「この先何しようかな」って考えている時に、先輩方が「こういう教え先どう?」みたいな感じで助けてくださったのがきっかけでした。。

それも週に1、2回あるかなっていうぐらいだったんですが、徐々に教え先で出会った 先生方と繋がって、また違う教え先を紹介していただいくことで広がっていって、今は、3~4ぐらいの教え先で教えています。

■フリーダンサーにとって一番大事なコト

――人脈が本当にどんどん繋がってく感じですね。

ある意味世界が狭いので、繋がろうと思えばすぐ繋がれるんですが、当初はコミュニケーション能力が本当に低すぎて……。あんまり人と関わらなくていいやみたいな精神で生きていたので、フリーになってからも同じ気持ちでいると、周りに人が本当にいないし、助けてほしい時に助けてもらえないことを身に染みて感じました。

今では、フリーダンサーにとって「コミュニケーション能力」が踊りより大事なんじゃないか……って思うくらいです。

サービス業ではないけれど、やっぱり怖い人、笑わない人にお仕事は頼まないですし、 印象がいい人にお仕事はどんどん行くんですよね。それを感じたので、私はフリーダンサーになって一番最初に自分のコミュ力を改善しました。

――コミュニケーション能力の低い、酒井さんが想像できないですね。

昔は初めてお会いした方とはほぼほぼ喋らなかったですし、バレエ団の外部の人とつながりを広げてこうみたいな感じでは、当時は全然ありませんでした。

でも、フリーだと次いつ会えるかも分からないので、短い期間で自分のことを知ってもらうためには、やっぱりコミュニケーション能力を一瞬で出さなきゃいけないっていうのが難しいかったですね。

――コミュニケーションにおいて、心がけたことはありますか?

私は笑いもしないかったから、 まず笑うこと。あとは、大きな声で挨拶。お教室にいる時から口酸っぱく先生に言われてるようなことが一番大事なんだって、フリーになってから気がつきました(笑)。本当に些細なことでも一回は喋りかけるって頑張ってましたね。

――フリーになるために準備すべきところは、とにもかくにも「まずはコミュニケーション能力」ですね。

私はそう思います。たとえば、お教室に呼ばれたとき、相手は子供が多いじゃないですか。でもこっちが笑わなかったら子供たちは余計緊張しちゃうし、お教室の先生も子供たちが余計に緊張するようなゲストはいらないですよね。

お仕事をたくさん持っている人はやっぱり誰にでもすごく優しいし、ずっと笑っているんですよ。踊りの技術だけではないんだなって、フリーになってから身に染みて感じました。


――改めて、現在のフリー道を選んで良かったことを聞かせてください。

フリーになったおかげで、ずっと踊ることだけにフォーカスしていた自分が、バレエだけじゃない人とも出会える分、いろいろなアイデアが自分の中で潤いました。

例えば新しいスカラシップを作ってみたいとか、こういう人のための舞台を作ってみたいとか、引き出しが増えたっていうか。それが自分がフリーになって一番良かったなって思います。

■生半可な気持ちでは踊り続けられない

――これまでずっとダンスを続けて来て、自分の強みはどういうところだと感じられますか?

持続力は誰よりもあるかな。途中でやめた期間もありますけど、まさか職業になるとは親もびっくりしているくらいなので。やっぱり、諦めにくいっていうのは、バレエを長く続けてきた自分の性格なんだろうなっていうのは証明できるし、もし自分がもうバレエの道はいいかなと思って、一般の職業に私が面接に行ったとしたら、自慢げに言えることはもちろんそれかなと思います。

――小さな頃からバレエをずっと続けられてるって、本当にすごいことですよね。

私もそう思います。でも、「一つのことをずっと続けられることって、本当はすごいことなんだよ」ってよく言われるんですけど、意外と私たち周りのダンサーの皆さんはあまり自覚はないんですよね。


――今キャリアに悩んでいるダンサーさんや親御さん、先生方にメッセージを伝えるとしたら、どういうことを伝えたいですか?

本人がどれだけやる気があるか っていうのは、やっぱり見極めるべきかなっていうのは思います。私も親を説得するのはすごい大変だったし、生半可な気持ちでやっている子は続かないっていうのは、私も教えていて思うことなので。もし子供たちがなんとなくバレエをやっている様子で、その道行こうかな……みたいな考えだったらば、 話し合った方がいいんじゃないかなっていう思いはあります。

だからこそ、本人が本気だったら、全力で応援してサポートしていただきたいです。もしそれで転んじゃった場合は仕方ない。誰もどんな先が待っているかなんてわからないからこそ、すごいダンサーになるかもしれないから。

それで、当たってくじけてやめても、全然格好悪くないし、この生活に自分が向いてなかったってだけのことなので。その後は、なんだったら転職すればいいわけで。バレエダンサーでも転職している人はたくさんいますから。

――ちなみに、さきほど、収入が不安定な時期もあったというお話もありましたが、そういう時期はどうされてましたか?

親の扶養内でアルバイトをしまくりでしたね。家賃や光熱費など、自分が生活するのにかかるお金は自分で稼ぐ。ただ、保険などのお金は扶養内に入っているから、 親が助けてくれるっていう状況でした。

――そのアルバイトっていうのは、どんなアルバイトだったんでしょうか?

日中はレッスンがあるので、夜しか働けないから空いているお店が居酒屋しかなくて。私の周りでも、飲食店はバイト先として多かったですね。

――皆さんタフですね。昼はバレエがあって、夜はアルバイトで。

あるあるですね。入団したてとか、みんな「そんなの普通だよね」って感じです。今日バイト?みたいな会話が全然あるぐらい。

――確かに居酒屋だとシフトも結構融通利きそうですね。

利きます、利きます。だから、まかない食べ過ぎて、たまに太っちゃう子とかもいたりして。本当に私たちお金がないので、ご飯代が浮くっていうだけでも喜びなんですよ。 だから本当に芸人さんの下積みと同じような感じで、アルバイト先をまかないで選ぶ子とか全然いましたよ。そこまでしてでも、バレエで生きていきたいっていう覚悟があるかですよね。

でも、その生活が合わなかったら、全然辞めていいと思うんです。先ほども言ったように、踊ることを辞めたからって全然人生が終わるわけじゃないし、なんなら「よくここまで頑張ったね、バレエ人生本当お疲れ様」、そんな感じでみんなバイバイしていきます。

誰しもいつかは踊れなくなる。それが早いだけか遅いかってだけですから。

――これまでの酒井さんご自身のダンサー人生を振り返るといかがですか?

私、基本的にずっと茨の道を歩んでるダンサーだなって、自分の中では思っているんですね。

身長がない分、最初から不利なスタートで、その時点でまず1つ目の挫折だし、バレエ団に所属し続けられなかったっていうことはやはり一番辛かった。 その後、フリーになったときもコミュニケーションができなくて、挫折を味わったし。

でも、挫折があったからこそ、今の自分があるというか。この嫌なことが成功するためには必要な材料なんだなと思って、自分はいつも動いてますね。

些細な挫折にはあまり自分自身が気づいてないっていうか、ある意味幸せ者ですね。


――最後に、10年後はどうなってると思いますか?

正直に言うと、考えてはいないです。踊る仕事もいただけるうちはどんどんいただきたいから、あまり「エンド」を作りたくないというか。目の前のやりたいことをどんどん叶えていった先に何かがあるかもな……みたいな感じで、そのとき思ったことを叶えるためにがんばっていきたいです。


【酒井友美 プロフィール】
1998年茨城県生まれ。5歳でバレエを始める。Kirov Academy of Balletに留学後、東京シティバレエ団、Iwaki Ballet Companyに所属。現在はフリーダンサーとして活躍中

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