「アルバイト代をダンスに使う日々」から人気YouTuberに。コロナ禍で訪れた挫折と転機【ダンサーインタビュー8:市川珠里さん】

「好き」を仕事にする。その言葉の裏には、見えない努力や葛藤が隠されているもの。特にダンスの世界では、夢だけでは食べていけないという厳しい現実に直面する人も少なくありません。

今回は、ダンスインストラクター「じゅりっこ」として活動し、YouTubeやInstagramなどSNSでも絶大な人気を誇る市川珠里さんにお話を伺いました。29歳にしてダンス歴24年、自身の会社「さくらダンス合同会社」の代表も務めるじゅりっこさん。コロナ禍で全ての仕事を失った経験から、いかにして独自のキャリアを切り拓いてきたのか。その道のりと、多忙な日々を支える独自のタイムマネジメント術、そして未来への展望に迫ります。

◾️テレビで見た浅田真央さんに憧れて。ダンスとの出会い

――ダンス歴24年とのことですが、ダンスを始められたきっかけは何だったのでしょうか?

じゅりっこ:幼稚園生の時に、テレビで浅田真央ちゃんを見たのがきっかけです。浅田真央ちゃんがフィギュアスケートの練習としてバレエのバーレッスンをやっていて、それを見た時に「バレエを習いたい」と思ったんです。

――フィギュアスケートではなく、バレエの方に惹かれたのですね

じゅりっこ:はい。でも、家の近くにバレエスタジオがなくて。それで母が、近くにあったダンススタジオに「ここでいっか」という感じで通わせてくれるようになったのが、ダンスを始めたきっかけです。

――お母様の一言が原点だったのですね。いつ頃からダンスを仕事にしたいと考えるようになったのですか?

じゅりっこ:小学生ぐらいの頃には、将来は何かダンスの仕事をやりたいなと思っていました。当時は「ミュージックステーション」で倖田來未さんや安室奈美恵さんが歌って踊る姿を見て、バックダンサーにすごく憧れていました。好きなアーティストさんと一緒にステージに立ちたい、というのが最初の夢でしたね。

◾️「お仕事がゼロに」コロナ禍で始めたYouTubeが転機に

――その後、専門学校に進学され、キャリアを積んでこられたのですね。YouTubeでの活動も積極的に行われていますが、始められたのはいつ頃ですか?

じゅりっこ:YouTubeを始めたのは2019年の冬で、本格的に活動し始めたのは2020年頃から、ちょうどコロナ禍で当時持っていた週10何本のダンスレッスンが全部お休みになり、急にお仕事がゼロになってしまった時期でした。

――全てのレッスンが……それは大変でしたね。

じゅりっこ:はい。なので、仕事がない中でYouTubeを本格的にやり始めた、というのが経緯です。最初はダンスだけでなく、Vlogや歌ってみた動画など、色々なことをやっていました。

――どのような動画がきっかけで注目されたのですか?

じゅりっこ:NiziUの「Make you happy」が一番伸びましたね。その頃はコピーダンスがそこまで流行っているわけではなかったですし、SNSでダンスを教えるっていうことがすごく少なかったっていうのがあって、やっぱり動画が少ないからこそみんなが1つの動画に集中したタイミングだったのかなと思って。今でも、あの時の再生回数は超えられないです。ずっとあれが一番ですね(笑)。

――やはり、YouTubeでの活動がキャリアの大きな転換期になったのでしょうか。

じゅりっこ:そうですね。そこでSNSで一気にフォロワーが増えて、見てくれる人が増えた時期が、自分にとって一番大きな転換期だったと思います。それまでのスタジオの生徒さんは口コミや、家が近いからという理由で習いに来てくれる方がほとんどでした。でもSNSを始めてからは、遠方から「YouTubeを見て来ました」と言ってくださる生徒さんが増えたんです。その時期は、自分にとってすごく大きな変化でした。

◾️アルバイト代をダンスに使う日々。「一番苦しい時期だった」

――YouTubeやSNSでの成功の裏には、大変なご苦労もあったかと思います。これまでで最も大きな壁や挫折を感じたのはいつ頃でしたか?

じゅりっこ:専門学校を卒業した後の数年間が、一番自分の中で苦しい時期だったなと思います。ダンスで仕事がしたいと思っていても、卒業後に働ける場所はすごく限られていて。自分が表に出れば、参加費や衣装代などでお金がかかることの方が多かったんです。

――収入よりも支出の方が多い状態だったのですね。

じゅりっこ:はい。「ダンスを仕事にしたいのに、アルバイトで稼いだお金をダンスで使う」という状況を何年も続けていました。自分のやりくりだけでは賄えなくなって、母や、当時付き合っていた今の夫からお金を借りることもありました。ダンスでお金を稼ぐというよりも、ダンスを続けることに必死だったなと思います。

――その苦しい状況は、どのように乗り越えられたのですか?

じゅりっこ:正直、自分でどうにかできたという感覚はあまりなくて。気づいたら環境が少しずつ変わっていって、自然と悩みが消えていった、という感じです。

◾️「何をしないか」を決める。テレビもソファもない生活

――現在はYouTubeとダンススクールを両立されていますが、そのやりがいや難しさはどんなところに感じますか?

じゅりっこ:やりがいに関しては、YouTubeとダンススクールが両方とも相乗効果で回っていくことです。YouTubeを見てレッスンに来てくれる生徒さんもいますし、逆にレッスンの生徒さんたちがSNSの動画に出演してくれることもあります。お互いが支え合って成り立っているなと感じますね。

――一方で、難しさを感じるのはどんな点ですか?

じゅりっこ:時間の使い方はすごく悩ましいです。YouTubeは撮影も編集も企画も全部自分でやっているので、どうしても時間がかかります。それに、レッスンをするにも振り付けを作ったり、発表会やイベントを開催した際も準備段階から全て自分でやらなければいけないので。

――その多忙な中で、時間を捻出するために工夫されていることはありますか?

じゅりっこ:「何をするか」よりも「何をしないか」の方を大事にするようになりました。やめることを増やして、例えば家にはテレビを置かない、ソファも置かない、といった少し変わった生活をしながら時間を作っています。

――ソファもないのですか!

じゅりっこ:はい。くつろげる場所はこの椅子しかないです(笑)。でも、そうやってスケジュールを管理するようになってからは、体調も安定しました。以前は夜遅くまでリハーサルをして、帰宅後に食事をして深夜に寝るような生活で、よく体調を崩していたんです。今はしっかり寝て、ちゃんと食べる生活を心がけています。

――じゅりっこさんのレッスンでは、通知表や交換ノートも書かれているそうですね。

じゅりっこ:はい。自分が受けたい内容のレッスンを作ろうと思ってはじめました。一人一人のダンスを見て分析して、もっとこうしたらいいんじゃないかなとか、ここがいいところだなとか、生徒さんのダンスを見るのすごい好きなので、通知表や交換ノートについては、半分オタク気質な気持ちで書いてます。

◾️自分とは違う才能を持った仲間と出会い、協力することが大事

――今後の目標やビジョンについてお聞かせください。10年後はどうなっていたいですか?

じゅりっこ:今は会社の社員が私と夫の2人だけなので、会社の仲間を増やしていきたいです。自分1人では届かない人たちにもダンスの楽しさを伝えていける、そんな仲間を増やして活動していきたいですね。もちろん、自分が踊ることも大好きなので10年後も踊っていたいですし、指導や振り付けの制作といった、表には出ない部分のお仕事も増やしていきたいと思っています。

――これからダンスでキャリアを築きたいと考えている人へ、ご自身の経験からアドバイスをお願いします。

じゅりっこ:学生さんに関してはたくさん挑戦もしてほしいけど、ちょっと失敗もしてほしいなとは思っていて、やっぱり楽しかったこととか良かったことだけじゃなく、ダメだった時の方が自分は学びが多かったなって思ったりもするので、勇気を持って挑戦してほしいなと。

――では、最後にダンスを続けながらキャリアを築く上で大切なことを教えてください。

じゅりっこ:仲間を集めることがすごく大事だと思います。私1人でもがいていた20代前半は、スキルは磨けたけど、それを誰かのために使ったり、お仕事につなげたりすることはできませんでした。でも、夫や、一緒に頑張るダンス仲間と出会い、サポートを得られたことで活動の幅が広がったんです。自分の才能とは違う才能を持った仲間と出会って、その人たちと協力しながら活動することが、キャリアを築く上で大事だと思います。

【市川珠里(いちかわ・じゅり)】
ダンスインストラクター、さくらダンス合同会社代表。「じゅりっこ」名義でYouTubeやInstagramでダンス情報を発信。ダンス歴24年、29歳。対面レッスンとオンラインレッスンを展開し、一人一人に寄り添う指導で多くの生徒から支持を得ている

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